DEXプロトコル『0x Protocol』の概要・仕組み・ガバナンス・課題
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●Introduction

本記事では、DEXのためのオープンプロトコルである0x Protocolについて解説します。DEXとはご存知の通り分散型の暗号通貨取引所を指します。そして0x Protocolはそれら複数のDEXをサポートするミドルウェア・プロトコルです。

・なぜDEXが必要なのか?

近年DEXは徐々にその数を増やし注目され始めています。ゆくゆくは中央集権的な取引所(CEX)の立場を脅かすとさえ言われています。では、DEXとCEXの間には違いとは何なのでしょうか。それは、主に以下3つのポイントです。

1-資産はユーザーの管理下にあるため、ハッキングリスクがない
2-グローバルでオープンなオーダブック
3-トレードを開始するまでがスムーズ

というような点です。

1つ目はよく言及されるDEXのメリットです。DEXではユーザーが秘密鍵を自分で管理します。したがって中央集権取引所特有のハッキングリスクを回避することができます。つまり中央集権的な取引所を信頼する必要がない(トラストレス)ということです。DEXの場合は取引所の緊急のシステム停止や、持ち逃げのリスクもありません。

2つ目は分散型であるがゆえに、ユーザーは国などの地理的な制約に縛られづらいというメリットがあります。世界中のユーザー同士が同一の流動性プールにアクセスし、取引を行うことができます。

そして3つ目は、CEXでは当たり前であるサインアップや厳格な本人確認が不要だという点です。それが原因で法定通貨を暗号通貨に交換することができなくなるという一定の制約は生じますが、個人情報を提供する必要がなく、できるだけスムーズにトレードを始めることができます。

・なぜ0x ProtocolはDEXではなく、DEX Protocolなのか?

以上がDEXとCEXの違い、及びDEXのメリットです。しかし、本記事で紹介する0x ProtocolはDEXではなく、複数のDEXを下のレイヤーでサポートするミドルウェア・プロトコルだという点に注意してください。そのため、トレードの際に私たちユーザーが直接0xを使うことはほぼなく、その上に位置するDEX(リレイヤー)が提供するオーダーブックでトレードの相手を選択し、取引を行うことになります。ではなぜ0x ProtocolはDEXではなく、プロトコルとなることを目指しているのでしょうか。その理由は主に以下3つの問題を解決するためです。

1-DEXの流動性
2-DEXを作るための障壁
3-DappのUX

1-流動性とは、買いたいと思った時に買えて、売りたいと思った時に売れる確率の高さを表す言葉です。資産の流動性が高いほどユーザーはリスクを下げられるので、流動性の高いDEXが求められています。ですがDEXの流動性の低さは、現状DEXが抱える最も大きな問題です。0x Protocolはこの課題を解決するために、複数のDEXのオーダーブックを統合します。複数の異なるリレイヤーに出されたオーダーを1つの流動性プールにまとめることで、そのネットワークにさらなる流動性を提供することができます。メカニズムについては後述します。

2-一般的なDEXとは多少が多少な異なることから、0x上のDEXはリレイヤーと呼ばれています。具体的には、0x Protocolが決済のコントラクトとリレイヤーのフォーマットを提供していて、一方リレイヤーの主な役割はマッチングインターフェイスを作成・運用です。このように両者はプロトコルとアプリケーションで仕事を分担しています。したがって、リレイヤーを設計するコストはDEXよりも低くなります。

3-0xのAPIを利用すると、DApps上でトークンの交換を行えるようになります。例えばAugurという分散型予測市場を提供するプロトコルでは、0x Instant(後述)を設置しています。そのためユーザーは事前に取引所にいくことなく、Augur上で直接ETHをREPに変換することができます。DAppsのスマートコントラクトはCEXに直接アクセスすることはできませんが、DEXが提供するAPIを活用することはできるのです。

さらに0xはミドルウェアレイヤーに位置するプロトコルであるため、そのスマートコントラクトを用いて異なるプロトコルやアプリケーションを構築することができます。その意味で、0xはここ最近大きく発展してきているEthereum上の金融プロトコル・アプリケーションエコシステム(通称:DeFi)の流動性を支える基盤となっていくと考えられます。

ここまでCEXとDEX、DEXと0x Protocolの対比を元にDEX、0x Protcolの必要性について言及してきました。ここからは、0xが実際に上記で説明したようなメリットをどのように実現していくのかについて、その詳細なメカニズムを解説していきます。

●0xの概要と基本的な仕組み

・プロジェクト概要

0x誕生の背景

2016年の8月、0x共同創業者であるWil WarrenとAmir Bandealiは、営利のビジネスとして、効率的なトレードが行えるDEXを作ろうと考えていました。しかしその頃、Dappsを開発する多くの開発者と出会いコミュニケーションをとる中で、2人は彼らが自分達のDappsにDEX機能を加えようとしていることを知ります。しかも彼らは、独自でアプリ内にDEXを構築しようと考えていたのです。当然これは愚策です。なぜなら1つのDAppsにつき1つのDEXを作るとなると、開発コストが高くなる上に、それぞれのDEXの流動性は確実に低くなると予想できるからです。そこで2人は考えを改め、それらのDEX機能を統合し、複数のDAppsに流動性を提供できるオープンプロトコルを作ろうと決心します。

0xのミッション

0x Protocolのミッションを一言でいうと、”Create a tokenized world where all value can flow freely(全ての価値が存分に流動する、トークナイズされた世界を作る)”となります。ここで言われているトークナイズされるものとは、法定通貨や金、不動産、ゲームアセット、アート作品など、全ての価値を対象にしています。つまり0xはこれらの価値を持つ対象の流動性を最大限高めることを目標としているのです。

0xのこれまでの実績

0xは2017年の8月に0xをローンチしました。これまで合計で$24M(約26億円)の資金調達を行っています。たった1年と半年ほどでリレイヤーの数は20以上になり、リレイヤーを含めた0x上で構築されたプロジェクト数は30を超えています。そして0x上で行われた合計のトランザクション数は35万回に及び、合計の取引ボリュームは$447M(約500億円)にまで達しています。

 

・0xの仕組み

基本的なメカニズム

さて、ここからは0x Protocolな基本的なメカニズムに着目していきます。まずは0x Protocolに登場する主体を定義します。以下の図をご覧ください。

主体 役割
0x Protocol 決済(交換)を実行するスマートコントラクト(オンチェーン)
Relayer(リレイヤー) マッチングのためのオーダーブック(オフチェーン)
Maker(メイカー) オーダーブックに買い・売りのオーダーを提示する人
Taker(テイカー) オーダーブックの買い・売りのオーダーを選択する人

0x Protocol上には、上記4つの主体が存在します。取引の流れを見ていきましょう。まずメイカーはリレイヤーに対し「Aというアセットと交換でBというアセットを手に入れたい」というオーダーを提案します。リレイヤーの承認後、そのオーダーはオーダーブックに掲示されます。次にテイカーがオーダーブックから、アセットの種類や交換比率などの項目を吟味し、オーダーを選択します。ここでオフチェーンでのマッチングは完結します。その後テイカーが0x Protocolのスマートコントラクトにトランザクションを送信し、オンチェーンで決済・トークンの交換が完了します。これで取引は終了します。

簡潔にするために多少説明は省いていますが、とてもシンプルなワークフローです。このような取引の流れを”off-chain order relay and on-chain settlement(オフチェーンオーダーリレー、オンチェーンセトルメント”と呼びます。他のDEXは取引のマッチングもオンチェーンで行っていることがありますが、それだとGas代を余分に請求してしまい、かつ取引速度の低下を生み出してしまいます。一方で0xではオフチェーンでマッチングすることで、余計なgasコストの発生を抑えることができます。

以下の図は先ほどの説明を図示したものです。

上記図の詳細なワークフローの説明は下記の表にまとめてあります。さらに詳しく知りたい場合はWhitepaperを参照してください。

順番 動作
1 リレイヤーは手数料の徴収のためにメイカーのアドレスを取得します。
2 メイカーはオーダーを作成し手数料を設定します。そしてリレイヤーのアドレスを受け取り、秘密鍵を使ってオーダーに署名します。
3 メイカーは署名したオーダーをリレイヤーに送信します。
4 リレイヤーはオーダーを受け取り、そのオーダーが有効であること、および手数料が適正か否かを確認します。 オーダーが妥当でないか、リレイヤーの手数料要件を満たしていない場合、そのオーダーは拒否されます。 オーダーの条件が適正であれば、リレイヤーはオーダーをオーダーブックに掲示します。
5 テイカーはメイカーのオーダーを含む更新後のオーダーブックを閲覧します。
6 テイカーはEthereumブロックチェーンの交換コントラクトにそのオーダーを提出し取引を完結させます。

 

ここまでの説明からも分かる通り、0x Ptrotocolは単に決済のトランザクションをスマートコントラクトによって処理しているだけに過ぎず、その上に位置する複数のリレイヤーが事実上のDEXとなり、ユーザーのトークン交換をマッチングしています。そしてリレイヤーのインセンティブは手数料収入であるということも分かります。

0xの流動性の提供機能(Networked Liquidity)

先述しましたが、0x Protocolの大きな特徴として、0x Protocolが各リレイヤーの流動性を何倍にも増幅させられるというメリットがあります。これをNetworked Liquidityと呼びます。以下の図をご覧ください。

上記図をみてもらえれば直感的に何が起きているのか理解できるのではないでしょうか。これはつまり、0xが各リレイヤーとDAppsから全てのオーダーを集約し、その上で各リレイヤー&DAppsにオーダーの情報を送信することで、0x Protocol上に1つの流動性プールを構築しているということです。流動性は0xのネットワークに参加する投資家・リレイヤー・DAppsが増加すれば増加するほど高まります。この機能は、0xが他のDEXや流動性提供プロトコルと一線を画しているポイントです。しかし、この機能は一見素晴らしいように見えて、セキュリティの面で大きな問題を抱えています。それは後ほど詳しく説明します。

リレイヤーの種類

0xのリレイヤーにはいくつかの種類が存在し、それらはそれぞれにメリット・デメリットを持っています。下記の図をご覧ください。ここでは4つのリレイヤー形態を紹介します。

種類 特徴 主なリレイヤー
①Open Orderbook(オープンオーダーブック) Networked Liquidityができるオープンな取引。安全性は低い。 Radar Relay, ERC dEX, LedgerDex, 外部Dapps
②Matching(マッチング) Networked Liquidityができないクローズドな取引。安全は高い。 DDEX, Paradex
③Quote provider(クォートプロバイダー) ①(Open Orderbook)+④(Reserve manager) Amadeus Relay
④Reserve manager(リザーバーマネージャー) リレイヤーがトークンを一定量保管し、いつでも交換可能にすることで流動性を提供する。(Kyberに似ている) Amadeus Relay

リレイヤーには、先ほど述べたNetworked Liquidityに参加するものもあれば、それには参加せず、セキュリティを重視し厳密でクローズドなマッチングを行うものも存在します。ここでは、①〜④の厳密な違いにフォーカスする必要はありません。ただリレイヤーにもいくつかの種類があるということを認識していただければそれで大丈夫です。※リレイヤーの実例プロジェクトは後述します。

●0xエコシステムのリレイヤー・アプリケーション

0x Protocolを使ったリレイヤー・DApps

以下は現在のリレイヤーと、現在0x上に作られているor作られる予定であるDAppsのリストです。

リレイヤー DApps
Amadeus/Bamboo Relay/ERC dEX/Ethfinex/Instex/Lake Project/LedgerDex/MobiDex/OpenRelay/Paradex/Radar Relay/Starbit/The Ocean/Token Jar/Tokenlon/Weswap/veil/Tokenmon/Boxswap/emoon Aragon/Auctus/Augur/BalancebZx/Blocknet/ChronoBank/Coinbase Wallet/CoinGecko/Emoon/Dharma/District0x/dYdX/EasyTrade/Gods Unchained/Hut34 Project/Lendroid/Maker/MelonPort/MyCrypto/OpenANX/Paradigm Protocol/Request Network/Set/Settle Finance

リレイヤーの情報はこちらの公式リスト0x Trackerというサイトの情報をもとにしています。※しかしリレイヤーはビジネス的な原因でシステムが停止したり、DDEXのように0xから離れたりと変化が激しいため、全て正しいと思わない方が懸命です。

そしてDAppsに関しても、厳密にいうと0xを使っていないものが大半です。0xを使っているとよく勘違いされているデット発行プロトコルであるDharma Protocolも、Telegramで開発チームに直接聞いたところ、0xのスマートコントラクトは使っていないと言っていました。

一方で、エコシステム内のリレイヤーとDApps同士で上手く0xを利用している例もあります。分散型予測アプリケーションであるveilはその好例です。veilはAugurという分散型予測プロトコルと0xのコントラクトの両方を使っています。Augurのオーダーブックはオンチェーンでしたが、0xを利用しそれをオフチェーンにすることで、トランザクション手数料を抑えています。

加えてRelayerの1つであるEmoonは、クリプトキティズのようなNFT(Non-Fungible-Token)を交換できるリレイヤーとして稼働しています。このような実例を見ると、将来的にはほぼ全てのクリプトアセットが0x上で交換可能になっていくのでは、と想像することができます。

 

0xが開発した付属機能やアプリケーション

0xの開発チームの推進力は業界野中でも力強い方で、これまでも様々なAPIやアプリを発表しています。今回はその中で、特に0xエコシステムにとって重要だと考えられる0x Instantと0x Portalと呼ばれる2つのAPIを紹介します。

0x Instant

0x Instantの凄さは、こちらのgifで実際にトークンの交換を行なっているのを見るとよく分かります。Balanceというウォレット上でトークンを交換する動画です。

先ほどAugurの例でも言及しましたが、0x Instantは、オープンソースで簡単に設定可能な、リレイヤーAPIです。0xを使うと、DappsやWalletはアプリ内にDEX機能を追加できます。加えてアプリがリレイヤー機能を備えるということは、リレイヤーとしてアフィリエイト手数料を取ることも可能になるということです。0x Instantは先述したNetworked Liquidityに接続されているので、0x Instantを使ったアプリが増加すれば増加するほど0x Instantの利便性も向上します。さらにいうと、0xの一般的なリレイヤーでは、ERC20トークンを取引するために、事前にETHをWETHに変換する必要があります。しかしAsset Buyerという機能を追加すると、0x Instantがその変換を自動で実行してくれます。つまり、ユーザーはETHから直接全てのercトークンを交換することができるのです。

0x Portal

0x Portalは、新規ユーザーのための教育と、リレイヤーの発見をサポートする導入アプリのことです。実際に0xとは何かを手触り感を交えて理解したい人・トレードを行ってみたいと考えている人は0x Portalを訪れて見ることをオススメします。そこではETHのWETH変換プロセスや、各トークンの認証に関する解説があります。そしてご覧の通りリレイヤーの一覧もあります。さらにリレイヤーに接続しない形で取引を行えるOTCトレードも行えるようになっています。

0xではこの他にもRelayerの開発kitなど様々なチュートリアルを試すことができます。筆者の知る限り、ここまで開発環境が整っているミドルウェア・プロトコルのプロジェクトは他にないと思います。

●0xのガバナンス

ここからは、0x Protocolにおけるガバナンス設計について解説していきます。0xではスマートコントラクトの構造を一連のパイプラインのように形作り、一部を取り替えて新しいコントラクトを組み込むといったような変更を行いやすくしています。こうすることで、アップデートの際のシステムダウンリスクや仕様変更におけるユーザーの混乱を最小限に抑えることができます。

0xチームは、以上で述べたようなプロトコルのアップデートを非中央集権的なプロセスで行う必要があると主張しています。そしてそのアップデートのプロセスは極めて安全に、かつ検閲や政府の介入を遮断できるようにしなければならないとしています。

以上から0x Protocolは分散ガバナンスを志向しているということが分かりました。ここからは0xがどのようにして分散ガバナンスを成功させようとしているのかについて解説していきます。

・ガバナンス設計とZRXトークン

0xは独自のERC20トークンであるZRXを一昨年(2017)のICOで調達しています。ZRXトークンの使用用途はユーティリティートークンとガバナンストークンとしての2つに分けられます。ユーティリティートークンとしては、ユーザーがリレイヤーに支払う手数料として利用されています。一方でガバナンストークンとしては、ZRXによる投票権として使用されます。

トークン投票スキームの確立は、分散ガバナンスの実現のために最も重要な要件です。そしてそれだけでなく、結果的にはエコシステム外部への影響力や求心力を高めることにも関係していきます。しかし、トークンを用いたガバナンス設計は非常に未熟な分野であることも事実です。アカデミックな研究・分析論文も成功例もありませんし、このような挑戦を試みているプロジェクトもほとんどありません。

したがって、0xはガバナンスをほぼゼロベースから構築していかなければなりません。現在決定しているのは、投票を用いた分散ガバナンスを実施するということと、その投票にZRXを用いるということのみです。よって、何が良いガバナンスなのか、誰が0xエコシステムのステークホルダなのか、トークンの分配は実際にステークホルダに正しく行き渡るか、ガバナンスが失敗した時どのステークホルダが最も不利益を被るのか、などの項目をこれから先ずっと熟慮し続けなくてはならないのです。

ちなみに、Ethereum財団がETHの手数料を収益にしていないのと同様に、0xもプロトコルを利用しているリレイヤーやDAppsから手数料を取っていません。プロトコルはインフラであって、ビジネスではないというスタンスです。

・トークンディストリビューション

分散ガバナンスとトークン投票スキームにとって最終的な課題になるのが、トークンの分配が健全に行われるかどうかです。下記の画像は、ICOを行った際に0xが発表したトークンの割り当てを図示したものです。

続いて、下記画像は現在のZRXのディストリビューションをグラフにしたものです。ZRXの総発行量は10億ZRXで、現在の市場流通量はその6割程度です。下記グラフで示されているのは、総発行量分の分配割合です。ちなみに上位100つのアドレスにおよそ8割のZRXが集中しています。

(source by etherscan)

ですが、この中の約4割のZRXは、0xの開発者や創業者、開発コミュニティのために割り当てられたものであり、これらのZRXの大半は彼らの手元に移ってからすぐに現金化されると考えられるため、そのまま投票に使われるとは考えづらいです。そしてそもそも、ミドルウェアプロトコルの分散性はよく議題に上がるテーマですが、まだプロジェクトがローンチされて1年と半年しか経過していない状態で、この割合を集権的か、分散的かと判定することは難しいです。なので実際にトークン投票による意思決定が行われて初めて、その真価が問われるのだと考えています。

・分散ガバナンスへ向けたロードマップ

0xのブログで、分散ガバナンスに向けたロードマップを公開していたので引用します。下記画像が0xチームが発表したロードマップです。

Phase1(2019):Token Curated Registoryの導入

→Token Curated Registoryは、トレーダーが取引を行う前に参照する、トークンのメタデータ(トークンのマークや名前、アドレス)が記載されているリファレンスのことです。現在は0x開発チームにより作成されているため、Token Registoryと呼ばれています。これをコミュニティによる管理に移します。

Phase2(2019/6):Community Vetoの導入

→0x開発チームのアップデートに対する提案に対し、投票によってZRXホルダーが提案を拒否できるシステムの導入します。Vetoとは拒否を意味します。

Phase3(2020):Liquid Democracy

→液体民主主義の実装。液体民主主義とは、インターネットを用いた、直接民主主義と間接民主主義の弱点を克服する新しい民主主義の形態です。参加者が誰でも草案を起草可能で、自分の投票権を第三者(例えば開発チームのエンジニア)に委任できたりします。

そしてその後、クリプトエコノミクスを活用したモデリングやオフチェーン投票、クロスチェーンガバナンスを実装していくと表明しています。しかしこのようなロードマップは構想段階の色が濃く、決して断定的なものではありません。実際に0xチームもこの方針は変化する可能性があると主張しています。

●0xの抱える課題

ここまで0x Protocolの概要や仕組み、革新性について述べてきましたが、当然のように課題がいくつか存在します。

・フロントランニング問題

フロントランニング問題とは、DEX全般に共通する、攻撃者(フロントランナー)があるトランザクションに横入りし、対象者の取引を妨害する行為です。ここでは0xにおけるフロントランニング問題の簡単な解説と、それに対して提案されている解決策について解説します。

0x Protocolにおけるフロントランニングのプロセスは以下の通りです。

順番 プロセス
メイカーがリレイヤーにオーダーを提出する
リレイヤーはオーダーブックにオーダーをリストする
テイカーがオーダーを選択し、トランザクションを0xのスマートコントラクトに送信する
0xのスマートコントラクトが送信したトランザクションはトランザクション・ペンディングプールでマイナーによるブロック追加を待機する
フロントランナーは攻撃対象者が送信したトランザクションと同様のタイミングで全く同じオーダーを作り、より高いガスコストを設定したトランザクションをペンディングプールに送信する
マイナーはガスコストが高いフロントランナーのトランザクションを先に処理する
トークンの交換レートが、メイカーにとって不利な比率に変わってしまう
攻撃対象者のトランザクションは失敗する。もう一度トランザクションを送信することは可能だが、その際の交換比率は当初より不利であり、かつ新たなgasコストがかかる。

※トークンの交換比率が変化する理由は、メイカーが入手しようとしたトークンの需要が、フロントランナーのオーダーが完結することによって、わずかに高まってしまうためです。

フロントランニングは実際の証券取引所においては違法行為とされています。ですが残念ながら、ブロックチェーン領域は非常に未発達な分野であるため規制はまだ実施されていません。早々に導入されるという期待もできないでしょう。そして、そもそも規制をするということはKYCや検閲の可能性を生んでしまいます。

実はフロントランニングはリレイヤーの形式によっては生じない問題です。先ほど紹介したMatching形式のリレイヤーの場合、メイカーとテイカーがクローズドにマッチングを行うモデルの場合、フロントランナーはオーダーの情報を知ることができないためこの問題は起こりません。しかし、これはオープンオーダーブック式のリレイヤーではできないため、0x特有のNetworked Liquidityを活用できなくなってしまいます。

規制にも頼らず、Networked Liquidityも損なうことなく、フロントランニング問題を解決する方法はあるのでしょうか。いくつか方法は提案されていますが、ここでは0xが次のアップデートの際に導入を予定しているTEC(Trade Execution Coordinators)について紹介します。

TECとは、テイカーがトランザクションをブロックチェーンに送信する前に、フロントランニングやオーダー重複の防止を行う主体のことです。プロセスはオーダーブック→テイカー→TEC→ブロックチェーンという手順です。しかしこの方法には、誰がTECになるのかという新しい課題があります。やり方によってはリスクのある集権性を生み出す可能性があるので、完璧な解決策であると断定することはできません。

・WETH

0xを使ったことのある方なら分かると思いますが、Ethereumの基軸通貨であるETHと、異なるスマートコントラクト規格であるERC20トークンとの間には互換性がないため、ユーザーはDEXでそれらのトークンを直接交換することができません。したがって、ERC20を扱う0x上のリレイヤーで取引をする際は、手持ちのETHをラッピングしてWETH(Wrapped ETH)にする必要があります。このようにトレードの前にいちいちETHをWETHに交換するのは、非常に面倒でありUXを悪化させてしまっている大きな問題となっています。しかし、先ほど説明した0x Instantの場合はETHを直接ERC20と交換できるようになったりと、着々と問題は解決されて行っているようにも思えます。ただリレイヤー上でこの問題が解決されるまでは、大きな欠点として0xの流動性に悪影響を及ぼし続けるでしょう。

・流動性

現在の中央集権取引所の中で、1日辺りの取引ボリュームが最も多いのはBinanceで、その額は$589,171,813(約700億円)です。一方でDEXの中で最も1日の取引ボリュームが多いIDEXの取引高は$1,377,611(約1億4千万円)、そして0x上のリレイヤーで最も1日辺りの取引ボリュームが多いのはRader Relayで、その額は$187,139(約2000万円)です。この違いからも分かる通り、0xどころかDEX自体の流動性すらCEXには遠く及んでいません。0xにはNetworked Liquidityという長所がありますが、現状ではその価値を発揮することができていません。したがって、0xが仮想通貨投資家の間で一般的に使われるようになるまで、まだしばらく時間がかかると考えられます。

●0xはブロックチェーンのポテンシャルを解放できるか

ここまでDEX及び0x Protocolの必要性や、0xの仕組み、ガバナンス、課題について広く解説してきました。もしこの記事を読んで、今まで以上に0xに興味をそそられたという方は、これより深掘りして0xを実際に利用したり、ブログや公式リファレンスを読んでみることを推奨します。すると、0xの開発チームのスピード感や0xを取り巻くDeFiエコシステム全体の発展の速さに驚かれると思います。

直近で言えば、0xはERC721トークンの交換を可能にしました。よってクリプトキティズやマイクプトヒーローズのNFTゲームアセットが0xのリレイヤー上で交換可能になります。今後は、これらのNFTトークンを複数まとめて交換可能にするZEIP-23という技術のアップデートも控えています。(例:クリプトキティズ4種類と10DAIをまとめてバンドルにし、Decentralandの土地と交換する)そしてDeFiエコシステムの発展で言えば、先述した分散型予測DAppsであるveilのローンチが好例です。

ちなみに先述したZEIP-23の実装の決議はガバナンスの投票に委ねられることになっています。これは0xで初めてのガバナンス投票です。(2月18日〜の1週間で実施されます。)0xのガバナンスはまだ始まったばかりですが、ガバナンス設計についてここまで深く広く深く熟慮し、実行しようとしているプロジェクトも他にはありません。MakerDAOは一足先にガバナンス投票を実装していますが、両者の公式情報を追っていると、0xの方がガバナンスに対するより多くの建設的な議論を行い、発信していることが分かります。

今以上に暗号通貨がメジャーになっていくと、0x上のリレイヤーによる流動性の提供は大きな価値を発揮するでしょう。そしてそれだけでなく、0x Protocolは様々なDAppsと接続し、多種多様なのアセットの流動性を高めることでができます。さらに、液体民主主義に挑戦し、ブロックチェーンガバナンスを成功に導いてくれるならば、0x Protocolを単なるDEXのインフラと呼ぶことはできなくなるでしょう。

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