数多くあるブロックチェーンを評価する軸として自分たちのチェーンが他のチェーンよりも優れているスペックを表示するという手法はよく使われているが、その中には表示形式が不適切なものや意図的に受け手を誤認させるような表現が多く見受けられる。
今回は、その中でも多くのクリプトユーザーが誤認している可能性が高いTPSの概念について考えてみたい。
TPSとは?
1 秒あたりのトランザクション数を指す言葉でTPSはブロックチェーンの速度と同一視されることもある数値であり、高TPSのチェーンは高速で利用できるチェーンだと思われている。
しかし、厳密には
TPS ≒ 処理に移れる容量
であり、一般的にイメージされている「速度」というよりも、1秒間にどれだけ多くの処理に対応できるのかという「容量」の話と解釈した方がより自然な表現だと考えることができる。
そのため、ブロックチェーンの速度をあるアクションの開始からそのアクションが完了するまでの待ち時間という意味で考えるのであれば、速度として評価すべきなのはTPSではなく、決済が確定するまでの時間(ファイナリティ)だと言える。
ファイナリティとTPSの関係は誤解されることも多いが、高TPS=大容量だから必ずファイナリティが速いという関係は成立しない。言うまでもなく直接同じ能力を評価する数字ではないからだ。
そのため、TPS比較一覧だけを表示して自分たちのチェーンが世界最速のチェーンであると宣伝しているチェーンは、自分たちが何をやってるのか理解していない、もしくはユーザーを騙そうとしている可能性が高いと言える。
使い分け例
ここでは、非技術者のために一般的なものに例えてTPSとファイナリティの違いをわかりやすく理解してもらうためにいくつかの文章を紹介する。
自動車の工場で例えるなら
とある車の工場では毎秒多くの車が作られており、これは生産力が高いと評価できる。しかしながら、鉄から始めて実際に車ができるまでの時間は秒ではなく数か月であり、そう考えると車完成までの時間という意味では工場の能力そのものはあまり関係ないと言える。
- 工場で車を作れる量→TPS
- 実際に車ができるまでの時間→ファイナリティ
宅配ピザに例えるなら
1 日に何千枚ものピザを作っているニューヨークの宅配ピザの店では毎日多くのピザを作ってはいるが、シェフやオーブンの数に関係なく、実際にピザを注文してから届くまでに30分ほど待たされることになる。
- 大量のピザを作れる量→TPS
- 実際にピザが届くまでの時間→ファイナリティ
まとめ
歴史的経緯から考えるに、その性質上からしてあまり適切とは言えないがVisaのTPSがブロックチェーンの能力を評価する比較対象として有名になりすぎたことで、ある程度は恣意的にいじることが可能なTPSだけをマーケティングに積極的に利用するTPS至上主義が流行して、ファイナリティを考慮せずにTPSこそが速度であると誤認する人を増やす結果になったと言える。
チェーンを評価するということは、TPSだけを重視すべきとか、ファイナリティだけを重視すべきといった単純な話ではなく、TPSやファイナリティや分散性、チェーンの安定性、トークン設計などいくつかの重要な要素を含めて総合評価するのが正当な評価方法だと考えられるし、単純に1つの要素だけを切り取って宣伝するチェーンに対して投資を考えるのであれば詐欺などの可能性に注意して、他の要素と混ぜて総合評価してみることをおすすめする。