本記事では、前半では主にEnigmaプロジェクトの概要について、後半では主に個人プライバシー保護に関する現代の社会的背景などについて触れながら解説していきます。
Enigmaプロジェクトについて
公式サイト: https://enigma.co/
White paper : https://enigma.co/enigma_full.pdf
GitHub : https://github.com/enigmampc
昨年Ethereum上でICOを行い、日本円で約50億円以上を集めたEnigmaプロジェクトについてです。ホワイトペーパー自体は、アメリカの名門大学であるMIT(マサチューセツ工科大学)のMITラボという研究室から発表されました。公式サイトを見てみると、現在(*2018/11時点)のメンバーは14人で、多くのメンバーはMITの卒業生です。プロジェクトの中心メンバーはCEOであるGuy Zyskid氏で、以前からビットコイン、ブロックチェーンの革新性に気付き、MIT内でもブロックチェーンに関する授業などを担当しており、学生達にブロックチェーンやビットコインの仕組みなども教えていたそうです。
他にもChief Product OfficerのCan Kisagun氏もMITの卒業生で、以前は有名コンサルティングファームであるマッキンゼーで働いていた経歴を持っています。他にもIBM、Snapchatなどの企業で働いていたメンバーなども参加しており、少数精鋭なグループな印象を受けます。
Enigmaは、現在のブロックチェーンが直面している、プライバシーとスケーラビリティという2つの課題を解決する事を目的としています。
現状のビットコインやイーサリアムなどのようなパブリックブロックチェーンは、取引の全てがインターネット場で誰からでも見えるようになっています。下の画像のように、どのアドレスからどのアドレスにいつどれくらいの量のコインが送られたのかという送金の内容や、スマートコントラクトを用いた取引の中身まで現状のパブリックチェーンでは全て把握できてしまい、少なくともこのままでは実用化は難しい状態です。
確かにトラストレスで中間搾取を省きながらも透明性を担保できるというのはパブリックチェーンがもたらした大きな革新性ですが、全ての取引がありのまま公開された状態で運用し続けられるという事は全く現実的ではありません。特にウォレットに入っている仮想通貨の保有量が公開されているという事は、例えるなら銀行口座の残高がインターネットで世界中に閲覧できる状態と一緒です。(*アドレスのみでは個人の特定はできませんが、ウォレット残高は確認できます。)
このようなお金の取引や、汎用性の高いスマートコントラクトを用いた取引では一部個人情報に関わるようなデータまで閲覧できるようになってしまい、このまま取引の中身が見えたままでは、情報が閲覧されても構わない範囲でのみでしか利用されなくなってしまいます。
またスケーラビリティの課題に関しては、イーサリアムのような1st Layerでスマートコントラクトを行うチェーンは、全てのノードが同じトランザクションを処理しなければなりません。そのため、特に大容量データのスマートコントラクト処理を行うような際には非常に時間がかかってしまい非効率的ですし、同時にそれに付随してスマートコントラクトの手数料の高騰も起きてしまいます。
スマートコントラクトの主なプラットフォームであるイーサリアムでも定期的にネットワークの手数料が高騰しており、トランザクションフィーのボラティリティも下のように非常に激しいものとなっています。
Source : Etherscan.io
このように、現状のブロックチェーンはプライバシー、そしてスケーラビリティの2つの大きな問題を抱えています。
Enigmaプロトコル
Enigmaプロトコルは、暗号化したままスマートコントラクトを実行するシークレットコントラクトと、負荷のかからないオフチェーン処理によって、スケーラブルでプライバシーを保ったままスマートコントラクトを実行する事を可能にします。
シークレットコントラクト
Enigmaプロトコルは、上記の2つの問題を解決するため、2つの大きな特徴を持っています。1つ目はシークレットコントラクト、2つ目はセカンドレイヤーオフチェーン処理です。
シークレットコントラクトでは、秘匿性を保ったままスマートコントラクトを実行する事ができます。先ほども説明した通り、イーサリアムなどのパブリックチェーンでのスマートコントラクトでは、コントラクトの中身や、どのアドレスからどのアドレスに何が渡ったのかなどの情報が全て公開されており、ユーザーのプライバシーが守られていません。当然パーソナルな情報などを扱っているようなコントラクトに関しては、コントラクトの中身は隠されなければいけません。日常のあらゆるデータまでもが世界中で公開されてしまうのは、誰だって望んでいません。
Enigmaはセカンドレイヤーとして機能し、元データを暗号化させたままスマートコントラクトを実行させる事によって、秘匿性を保つ事を可能にしています。
簡単に言うと、データを暗号化して誰にもわからないような状態にして、その暗号化されたデータのまま加算や乗算などの計算をする事ができるようになると言う事です。
元々は、1978年に提唱された準同型暗号という暗号方式が提唱されたのですが、この暗号方式では乗法と加法の両方を同時に実現する事はできませんでした。それに対してEnigmaは、暗号化されたまま乗法、加法の両方を実現する暗号方式を開発しようとしています。sMPC(Secure Multi-Party Computationの略。MPCとも呼ばれる)という技術を用いてコードが正確に実行された事を保証しながら、どのノードにも暗号化される前の元データを漏らさずに実行する事ができるわけです。(*現在リリースされているテストネットでのIntel SGX対応デバイスを使って計算を行うシークレットコントラクト1.0では、暗号化したまま計算を行いません。今後のEnigmaプロトコルのアップデートにより、sMPCが実装されたシークレットコントラクト2.0がリリースされる予定です。)
Enigmaの今後のロードマップについては、こちらのEnigma Japnの記事が参考になります。
準同型暗号についてより詳しく知りたいと言う方は、こちらでも詳細な説明がされていますので良ければご参照ください。
ビットコイン、ブロックチェーンがなぜ革命的だったかと言うと、従来まではいわゆるお金と言うものは、政府の信用や金という自然の価値に担保されていました。それがビットコインの登場により、暗号化技術を使った、暗号学、ブロックチェーン技術によって担保された世界初の新しいデジタル通貨を作った事にあると言われています。そしてビットコインの次に現れたイーサリアムは、このビットコインで利用されているブロックチェーンを使って、ビットコインでは送金、受取しかできなかったのに対し、スマートコントラクトという新しい概念を持ち込み、送金だけでなくあらゆる契約事や決済を中間管理者を必要とせずに自動執行する事を可能にしました。この概念はブロックチェーンをより広く活用して、金融だけでなく医療や不動産など、あらゆる産業で利用されていくと言われています。ですが、ビットコインの送金やイーサリアムでのスマートコントラクトは、トランザクション、契約の中身が全て外部から丸見えになってしまいます。
(*ビットコインやイーサリアムなどのようなパブリックチェーンは、大きな思想として中間管理者がいなくても透明性を保つ事ができるという理念があり、そのためデータがパブリックに解放されている事を一部嗜好している面もあります。)
全てのユーザーのスマートコントラクトのデータが外部から丸見えになるようでは、中々一般向けまで浸透するのは難しいでしょう。自分が購入した物、行った場所、交友関係などあらゆるデータが全て他者にいつでも見ようと思えば見られてしまう状態は誰にとっても嫌ですよね。Enigmaでは、このスマートコントラクトのデータを暗号化したまま、計算にかける事であらゆるスマートコントラクトのデータを暗号化したまま処理する事が可能になります。これにより、スマートコントラクトの元データを秘匿性を保ったまま処理する事が可能になります。これをシークレットコントラクトと呼んでおり、Enigmaの1つの特徴となっています。
これにより、現在のブロックチェーンにおけるプライバシー問題を解決しようとしています。
(*厳密にはイーサリアム上でも、ZK-SNARKsやゼロ知識証明を用いてスマートコントラクトの一部を秘匿化するソリューションもありますが、証明する人はデータを見る必要があり、完全にデータを秘匿化する事はできません。)
ZK-SNARKsは、データが正しいかどうかを証明する事に重きを置いている一方、Enigmaはデータを暗号化したまま計算にかけ、スマートコントラクトを実行する事に重きを置いています。一口に秘匿化のための技術と言っても、根本的な目指すコンセプトが大きく違います。
ここでは詳しくは説明しませんが、ZK-SNARKsなどの秘匿化技術との比較についてはこちらをご覧ください。
(*引用元 : https://www.youtube.com/watch?v=T47CneAXJVg)
また、Enigmaの公式ブログでもZK-SNARKsなどの秘匿化技術について解説をしています。
*ZK-SNARKsとEnigmaの違いなどについては、こちらのイーサリアム研究所の記事も参考になります。
スケーラビリティ
Enigmaはイーサリアムやビットコインのようなパブリックチェーンの1st Layerではなく、その上にある2nd Layerとして機能します。(*現状はイーサリアムのブロックチェーン上でオフチェーンセカンドレイヤーとして稼働しています。)2nd Layerのメリットとして、メインチェーンのセキュリティを利用しながら、手数料圧縮や一部独自仕様の導入が可能になります。
また、Enigmaはトランザクション処理を全てオフチェーンで行います。断片化された暗号化のデータは、1st Layerのように全てのノードがデータを共有して同じ処理を行う必要がなく、オフチェーン上でそれぞれ別のノードで計算されるため、チェーンに負荷をかけずに大容量データの計算も可能になります。これにより、ビットコインやイーサリアムが現在直面しているスケーラビリティ問題を解決しようとしています。
先ほどのシークレットコントラクトと合わせ、よりスケーラブルで秘匿性を保ったスマートコントラクトを行えるというわけです。
また、Enigmaはもう1つ、分散型ストレージ機能という機能が存在します。データの記録を分散型ストレージで処理するものです。これは概念自体はそれほど新しいものではなく、すでにFilecoinなどのようなプロジェクトも存在しています。Enigmaも同様に、データのストレージの分散機能を保有しており、シークレットコントラクトのデータも、1つの中央集権的なサーバーに依存せず、より分散的に管理しようとしています。
Enigmaに存在する3つのレイヤー
Enigmaには、3つのレイヤーが存在しています。
1つ目が最下層に位置しているプロトコルレイヤーです。これはEnigmaのプロトコルの役割をしており、上記で説明したオフチェーンで1st Layerと接続してシークレットコントラクトを実行するプロトコル層になります。
2つ目が中間層に位置しているプラットフォームレイヤーです。プラットフォームレイヤーでは、シークレットコントラクトや分散型ストレージ機能を使って、データマーケットプレイスなどの様々なプラットフォームを構築できる層です。現在 EnigmaチームはData Market PlaceというBased Dapps層も作っています。Enigmaのネイティブトークンである、ENGトークンを用いて、暗号化されたデータの売買を行えるようなアプリケーションプラットフォームを開発しています。
3つ目が最上位層に相当するアプリケーションレイヤーです。ここでは、文字通りEnigmaプロトコルを用いてシークレットコントラクトなどを活用する分散型アプリケーション(Dapps)を作成する層になります。
現在Enigmaチームは、Catalystと呼ばれる、投資ファンドの運用データなどをシークレットコントラクトを用いて秘匿化し、そのデータを売買できるようなDappsを開発しています。
Enigmaの構造に関しては、こちらのうどんのEnigma(エニグマ)ガイドより引用したイメージ画像が参考になります。
Enigmaトークン(ENGトークン)
Enigmaはネイティブトークン(ENGトークン)を発行しています。このENGトークンは主に下記の2つの用途が存在します。
コンピュテーションの手数料
コンピューテーションの手数料とは、イーサリアムにおけるスマートコントラクトを実行した際に消費するGas価格と同じ概念であり、 エニグマを使ったシークレットコントラクトの実行手数料としてENGトークンが使用されます。Gasの概念はイーサリアムにおけるETHと同じで、GasとしてのENGトークンは固定価格となります。
公式のオフィシャルブログにも、以下のように書かれています。
The primary function of ENG in the Enigma protocol is to pay for computations, very similar to the function of Gas (ether) in the Ethereum network. When an application runs a secret contract on the Enigma network, end users who interact with the application (or the entity that deployed the application) has to spend ENG to get the computation done in a privacy-preserving way.
ステーキング
Enigmaには、2つのノードが存在します。Secret NodeとConsensus Nodeです。Secret Nodeはシークレットコントラクトを実行するノードで、誰でもなる事ができますが、Intel SGX対応デバイスが別途必要となります。(*現在リリースされているテストネットでのIntel SGXで計算を行うシークレットコントラクト1.0では暗号化されたまま計算は行われません。その後のEnigmaプロトコルのアップデートでMPCが実装され、シークレットコントラクト2.0がリリースされる予定です。)Consensus Nodeは、Enigmaチェーンを直接支えるノードとなり、検証などの役割を担います。現状はイーサリアムチェーン上の検証に依拠しているため、今後Enigmaチェーンがリリースされて以降Consensus Nodeについては必要になる、という事のようです。
Consensus nodes operate the Enigma blockchain itself — they validate computations and set the final ordering of state changes. (In Discovery, these type of nodes are not yet available to run as we instead rely on Ethereum for verification.
〜中略〜
Later iterations of Enigma protocol, which will introduce further improvements to secret contracts such as multi-party computation (MPC), will not be dependent on hardware. Furthermore, consensus nodes (when they become available after the launch of the Enigma chain) will not require any specialized hardware either.
Enigmaは、マイナーの選出方法において、PoSのコンセンサスを採用しています。デポジットするENGトークンの量が多ければ多いほど、次のシークレットコントラクトを実行できる可能性が上がります。また、ステーキングをするにはENGトークンの最低数量が設定される予定で、数量の情報はまだ公開されていません。
The Enigma network uses a Proof of Stake model for worker selection, which means the probability of a worker node to be selected to run the next secret contract is proportional to the amount of ENG tokens staked by the node. This means that the greater your stake, the greater the cumulative rewards you can earn, as your likelihood to be sampled increases proportionally. There will also be a minimum amount of ENG required to run a staking node. That number is expected to be higher in the early days, and gradually to decrease to accommodate thousands and potentially tens of thousands of nodes. You can expect significantly more details on node running and staking to be released closer to our mainnet launch.
また上記の2つ以外にも、ストレージの費用としてや、先ほど説明したData Market Place内におけるデータの交換媒体(Data Market Placeないで使える通貨のようなイメージ)などの用途があります。
Enigmaのユースケース
Data Market Placeでは、Enigmaの最大の特徴でもあるこのデータを暗号化したまま処理するシークレットコントラクトを用いて、データを暗号化したままデータの売り手、買い手を繋ぐ事ができるようになります。プライバシーを守りながら、データの売買を行えるようになれば、様々な市場でのユースケースが考えられます。
- 医療データ
- 遺伝子解析データ
- 信用(クレジット)スコアリング
- ソーシャルデータ
- 検索履歴や、商品購入履歴
例えば上記のようなユースケースが思いつきます。医療データや遺伝子解析データのような分野では、一般的に患者は体重や血液型などの個人の情報と密に紐付くデータを提供する必要があります。特に病院が第三者機関に対してデータを提供する場合、NDA(秘密保持契約)を結ばなければならず、その第三者機関を信頼しないといけません。そこでEnigmaを使えば、データが暗号化されたまま計算にかけられるため、個人にとってのプライバシーは完全に守られるようになります。
また、信用(クレジット)スコアリングなどは融資、ローンの審査などの場面でも重要で、こういったデータも暗号化したまま計算にかける事が可能になれば、個人の重要なデータが漏洩して悪用されるような心配もありません。
現に最近でも、Marriottグループが約5億人分のパスポート情報やクレジットカード情報がハッキングされました。
(-NewSientistより)
このように、クレジットカードや個人を特定するパスポートなどのような情報でのユースケースも期待されます。
Enigmaの様々なユースケースについては、こちらのEnigma Japanのブログもぜひご参照ください。
なぜ今プライバシーが重要なのか
さて、話が少し変わりますが、なぜZK-SNARKsやEnigmaのようなプロジェクトがここまでプライバシーを気にしているのでしょうか。それには、現在のインターネットにおける問題点が大きく関わっています。
広がるデータ市場
2018年現在、インターネットの普及により人々の社会は大きく変わりました。デスクトップではできなかった、いつでもどこにでも持ち運びができるスマートフォンの誕生により、人々は常時ネットに接続する事ができるようになりました。SNSなどの「いつでも、どこでも、誰とでも繋がれる」ようなサービスと持ち運びができるスマートフォンの相性は抜群で、多くの人がスマホを経由して常時ネットに接続するようになりました。そして次のIoTでは、自動車や家電などの従来まではインターネットに繋がっていなかったあらゆるものがインターネットに常時接続するようになります。ネット接触の時間が増えれば当然、インターネット上に発生するデータ量も以前とは比較にならないほど爆発的に増えていきます。2025年度には、全世界で発生するデータは2016年比で約10倍の163兆ギガバイト程度になるとも言われています。
そんなデータが溢れ返っているビックデータと言われるような時代で、多くの企業はこのデータに目をつけるようになりました。位置情報、購買履歴、ソーシャルデータ、趣味趣向などのあらゆるデータがインターネット上で生まれ、それらのパーソナライズされたデータは広告と非常に相性が良く、それらのデータは広告によってマネタイズを図る企業にとって、重要な”収益の源泉”となったわけです。企業は無料でサービスを提供する代わりに、ユーザーのデータを収集し、企業はその集めた個人データを第三者に販売したり、データを活用して広告商品の最適化を図る事でマネタイズを行うようになりました。この個人データの価値は非常に高く、個人データは「21世紀の石油」とも言われるようになりました。
GAFAの台頭と個人データの寡占
そんな「21世紀の石油」を追い求め、多くの企業が個人データを集めるためにユーザーの囲い込みを始めるようになりました。そうして現在ではGAFA(Google, Apple, Facebook, Amazonの総称)のようなIT企業が個人データを寡占しています。GoogleやFacebookなどのようなサービスは検索や位置情報、ソーシャルサービスなどを全て無料で提供し、その対価としてユーザーの検索履歴、位置情報、購買履歴、友人関係、いいね!した投稿などのあらゆる情報を収集する事で、データを活用して広告に活かしたり、データを第三者に販売する事でマネタイズを行います。現にGoogleやFacebookの業績の大部分が既にデータを活用した広告事業によるものです。Facebook、Google、iPhone、amazonなどのようなサービスは、現在なくてはならないインフラのような存在になりました。
これは、世界の株式における時価総額のトップ企業を見ればわかります。約10年前の2007年は、エクソンモービル、ペトロチャイナやロイヤルダッチシェルのような文字通りまさに「20世紀の石油」である原油を抑えていた資源大手企業がトップにいましたが、現在は「21世紀の石油」である個人データを抑えているアルファベット(Googleの親会社)やFacebook、amazonのような企業に変わっています。
(日経新聞より)
個人データを取り巻くプライバシーの問題
そんな21世紀における個人データを支配してきたGAFAですが、昨今特にGAFAによるユーザーの個人情報に関する漏洩問題が頻繁に起きています。Facebookは約5000万人分の個人情報流出を起こしたり、他にも政治コンサルティング会社のケンブリッジアナリティカに約8700万人分のFacebook利用者のデータが不正に共有され、選挙活動のために活用された出来事もありました。
Googleでは約50万人分の個人情報の漏洩、最近ではAmazonでも個人情報の流出が起きました。GAFAによるデータ漏洩問題も現に既に起こり始めており、いかに個人データのプライバシー保護のポテンシャルが大きいかを物語っています。
少し余談ですが、Appleはユーザーの個人データに関して問題を起こしたことはありません。というのも、Appleに関しては他の3社とはプライバシーに関して少し違った方向性を取っています。Appleは基本的にユーザーのプライバシー保護をする方針を一貫して強く保っています。最近のiOSのアップデートでも、クッキーの失効など、ユーザープライバシー保護の強化に焦点を置くアップデートも多かったです。
これはAppleのメイン事業の性質から来ていると考えられます。Google、Facebook、Amazonの3社は主にソフトウェア(いわゆるWebサービスやアプリケーション)を通じて収益を上げているのに対し、Appleの場合は主にiPhoneやMacなどのハードウェアデバイスの売上げを通じて収益を上げています。これが意味するのは、Google、Facebook、Amazonなどはインターネット上でデータを収集することによって収益を上げているのに対し、Appleはデバイスの売り上げによる収益であるため、取得できるユーザーの情報がかなり限られます。実際に他の企業と比較しても、下の画像のようにAppleは取得できるユーザーの情報がかなり少ないです。
- What the big tech companies know about youより
そのため、取得できるデータが少ない分、ある意味半ば「必然的に」Appleはセキュリティー保護を自社プロダクトのセールスポイントにする”しかなかった”という風にも捉えられるかもしれません。
GAFAとブロックチェーン
GAFAによる個人データ漏洩問題は気軽に捉えられるような小さな問題ではなく、国家レベルで個人データを巡る争いになっています。ヨーロッパでは、2018年5月に正式に個人データの処理と移転に関するGDPR(General Data Protection Regulation : EU一般データ保護規則)が施行されました。この法案では、ヨーロッパにおけるユーザーの個人情報についての取りまとめたものであり、ユーザーの同意なしにヨーロッパ圏在住者のデータを国外に流してはいけない、などと言うような個人プライバシーにおける厳しいとり決めになります。この法案の根本的背景は、「21世紀の石油」である個人データの所有権はGAFAのような一部の企業ではなく、ユーザー1人1人にあるという思想から来ています。
GDPRの具体的な中身についてはご興味のある方はこちらをご覧ください。
https://jp.marketo.com/content/gdpr.html
また、ヨーロッパだけでなく、世界各国でもこのような個人データを巡る規制方針について議論がされています。規制内容は各国によってバラバラですが、当然個人情報収集による既得権益を守りたいアメリカはデータに関する規制を緩くしている一方、日本、欧州、中国などはアメリカほど規制が緩くないのも事実です。
(日経新聞より)
このように、個人プライバシーデータの問題は決して対岸の火花ではなく、消費者1人1人がしっかりと対応を考えてないといけない時代になりました。
そんな時代に注目を浴び始めたのが、ビットコインの中核技術でもあるブロックチェーンです。本題を離れてしまうのでここでは詳しくは説明しませんが、ブロックチェーンはGAFAのような巨大な中央集権的(単一障害点とも成りうる)データセンターを必要とせずとも、ユーザー自身が自律分散的にデータやアセットを管理できるようになります。データの所有権を巨大企業からユーザーの手に戻すわけです。この巨大企業によるデータ漏洩が問題になっている時代に、ブロックチェーンというデータの力を個人に戻す技術が生まれ、そしてEnigmaやZK-SNARKsのようなブロックチェーンを使ってより個人プライバシー保護を強化する技術が生まれたのも決して偶然ではないでしょう。
総括
前半では主にEnigmaプロジェクトについて、後半では主に個人プライバシーをめぐる社会的背景について説明させていただきました。
ブロックチェーンは個人のデータのパワーを巨大企業からユーザーの手に戻します。1990年代から著書Life After Televisionでテレビの終焉、スマートフォンや音声認識技術の誕生を予見していたジョージ・ギルダー氏も、最近の著書Life After Googleで、Googleのような無料でサービスを提供し、代わりにデータを収集して広告でマネタイズするような事業モデルは持続可能ではなく、10年後にはGoogleは影響力を相当落とす事になり、代わりにブロックチェーンによるセキュアでボーダレスなグローバルなペイメントシステムの誕生を予見しています。著者の考えるいかにGoogleが影響力を落とすか、そしてブロックチェーンによる「クリプトコズム」が台頭するのかについては、こちらの動画でも本人から説明されています。
興味のある方はぜひご覧ください。かなり興味深い内容になっています。
*当記事は投資対象としてEnigmaを推奨するものではありません。また、ENGの価格の上昇または下落を示唆するものではありません。投資判断は自己責任でお願い致します。