徹底考察:ブロックチェーンの環境問題(持続可能性)を考える。
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みなさんこんにちは、stirlabリサーチャーのTOSさんです。

これから3本立ての記事でブロックチェーンのサスティナビリティについて徹底考察してきます。

この領域はまだ情報が少なく、特に日本では未だあまり議論されていないテーマだと考えています。

大学院で環境学を研究しながらブロックチェーン業界に身を置く私にとっては最も熱い議論点の一つですので、私自身の勉強も兼ねて今回はこの記事を作成することにしました。

今では様々な場所、分野で環境保全やsustainabilityについて議論がなされています。

しかし、大学院でこの分野を研究している私にとっては、巷に溢れる情報には些か不可解な表現や、論理破綻しているものも多々見受けられます。

即ち、「SDGs」や「サスティナブル」といった言葉が先行し、実態が伴っておらず、形骸化している現状があると考えています。

実際問題、この分野の議論は大変難しいです。なぜなら、究極的にサスティナブルで環境に良いものなど、私たち人間が生産活動を行なっている以上ほぼ存在しないからです。

この議論の上で気をつけなければいけないことは、私たちは”ベスト”ではなく”ベター”を模索する過程であるということです。

既存のプロダクトや社会・経済システムを踏まえて、環境や持続可能性に対してベターな選択を行なっていく、それが今の私たち人類が直面している課題だと考えています。

そのため、これからの記事ではビットコインは環境に良い!とかブロックチェーンは持続可能な技術だ!と言ったような断言的な表現ではなく、新しいこの技術を既存のシステムと比べた時の持続可能性を考えていきます。

Sustainability(サスティナビリティ)とは?

ブロックチェーンとの関係性について議論を始める前に、まずそもそもSusutainability(サスティナビリティ)とは何か、という話をしたいと思います。

「SDGs」や「サスティナブルな商品」とか、一般化してきた言葉ではありますが、本質を理解している人は少ないのでは無いでしょうか。

ブロックチェーンとの関係性について議論を始める前に、まずそもそもSusutainability(サスティナビリティ)とは何かという話をしたいと思います。

「SDGs」や「サスティナブルな商品」とか、一般化してきた言葉ではありますが、本質を理解している人は少ないのでは無いでしょうか。

Sustainabilityは日本語ではよく「持続可能性」と訳されることもありますが、工藤博士が「私たちのサスティナビリティ」で論じている『私たちが将来にわたって持続していきたいことを考え、それを守り、つくり出し、次世代につなげていくこと』といった定義※1が私は気に入っています。

Sustainability を構成する要素は三つあります、Environment(環境)、Society(社会)、Economy(経済)です。

画像出典元:Three pillars of sustainability: in search of conceptual origins※2

今現在最も良く耳にするのは、自然環境のSustainabilityでは無いでしょうか。

経済成長ばかりに焦点をあて、環境が蔑ろにされ、水資源が枯渇したり、土壌が汚染されたりし、人間が生命の維持が行えなくなることは、持続可能であるとは言えません。

しかし、Sustainabilityとは森や川などの自然環境の持続可能性だけでは無いのです。

例えば、もし自然環境の保護のみを懸念事項とし、経済活動を急進的に止めたとして、市場が停滞し、貧困や紛争が生まれたらそれもまた、持続可能な選択であるとは言えません。

環境、社会、経済を守り、最も良いバランスを創造し、次世代に繋げていくことがSustainabilityの意義だと考えています。

マイニングと環境問題

「仮想通貨はマイニングにより電力を過剰に使用し、環境に良くない。」

2021年仮想通貨市場が好調になった際、こんな言葉をよく聞くようになったのではないでしょうか?

実際に以下の写真のように、マイニングが行われているイメージを見ると、直感的には電力消費が膨大で、環境負荷が大きいように思えます。

実際に、ケンブリッジ大学オルタナティブ金融センター(CCAF)によればビットコインは現在(2021)、1年間に約110TWh(テラワット時)のエネルギーを消費している。これは、世界の電力生産の0.55%、マレーシアやスウェーデンなどの小規模な国の年間エネルギー消費量に相当します。

こうした現状から価値のない電子ゴミに一国のエネルギー消費量を使用するなんてけしからん!と言った議論も多々見受けられます。

しかし、こちらの記事でカーター氏が分析しているように、ここで考えるべきは「ビットコインには、環境に及ぼす影響に相応しい価値があるのか」という問いです※3。

なぜなら、既存紙幣も含め全ての産業がエネルギーや資源を消費しているからです。

それでもなお、現状利用が続けられている背景には、その産業のエネルギーや資源の消費量に相応しい価値があると考えられているからです。

今私たちが日常で使っているappleのmacbookやiphoneの環境負荷は大きいですが、誰も生産を止めろとは言っていません、なぜなら社会がその価値を認めているからです。

そのため、先に紹介した数値データのみではビットコインのサスティナビリティを議論することできないと私は考えています。

ではビットコインが提供する価値とはなんでしょうか。どの既存産業への代替品となるのでしょうか?

一つの例は、既存の通貨(貨幣・紙幣)だと考えます。

そのため、次に既存通貨とビットコインを比較し、ブロックチェーンのサスティナビリティを考えていきたいと思います。

ビットコインってお金より環境に悪いの?

興味深いことに、既存通貨の環境負荷の全貌を捉えることは想像以上に困難な作業です。

何気なく毎日使っている「お金」ですが、物理的にどこからきて、商品との交換の際に利用するまでどこに存在していて、どれだけの環境負荷があるのか、といった全貌を明確にするのはほぼ不可能と言っても過言では無いでしょう。

そのため、ビットコインを環境問題として指摘している人々は明確な数字が出ている、パッと見ると既存通貨の環境負荷を表しているような数値を利用しがちです。

例えば、こちらのBloombergの記事では、Visaクレジットカードのトランザクションにおける環境負荷と比較しビットコインの環境への悪影響を指摘しています。

しかし、よく考えればこの比較は対等な比較では無いことが分かります。

ビットコインはそのものが通貨であり、決済システムであるのに対し、Visaは国際的な決済システムの一つに過ぎません。

そんな全体像を掴むのが難しい既存通貨そのものの環境負荷を捉えることを試み、ビットコインと比較検討を行った研究もあります。

こちらの論文では、ビットコインマイニングと金のマイニング、紙幣・硬貨の発行と銀行システムの維持のエネルギー消費量、二酸化炭素排出量を比較しています※4。

結論から言うと、ビットコインは既存の貨幣サービスと比べると環境負荷が少ないことが分かります。

ここの比較で注目すべきはBanking System(銀行システム)だと言えます。

私たちは既存通貨とビットコインの環境負荷を比較する際には、通貨そのものだけではなく、通貨を流通させるために行われているサービスの環境負荷を、通貨の二次的な環境影響として考える必要があります。

画像出典元:An Order-of-Magnitude Estimate of the Relative Sustainability of the Bitcoin Network

既存通貨の二次的な環境影響に関しては、こちらの記事で経済学博士であるピーター氏が明確に指摘しています※5。

「フィアット(円やドル等の法定通貨)の二次的「エコロジカルフットプリント」は地球上のどの街を観察しても明らかです。アメリカだけでも約80,000の銀行の支店があり、47万台のATMが存在しています。また私たちが普段目に触れない部分として、金融・保健産業の存在があり、これは製造業に次いで国内総生産の8.4%を占めています。何百万人もの人々が世界中で地下鉄や車でオフィスに通い、貨幣制度を中心に働いていることを考えてみてください。」

これらの指摘から貨幣制度は最も複雑な社会システムの一つであるため、二次的な環境負荷まで考慮する必要があり、その場合にはビットコインの環境影響は非常に小さいものであることが分かります。

そんなことまで考慮するのは過剰計算であると感じる人も多いかもしれませんが、ブロックチェーンが実現しようとしている社会はP2Pであり、既存の通貨のみならず、通貨に関連したサービスや産業も抜本的に変革しようとしていることを考えれば、比較すべき対象であると私は考えます。

ビットコインと再生利用可能エネルギー

最後に、現在ブロックチェーンのサスティナビリティで最も熱い議論がされている、マイニングへの再生利用可能エネルギー利用について説明します。

こちらのドキュメンタリー動画では、ビットコイン支持の立場からビットコインの環境負荷の低さ、既存貨幣システムの課題を指摘しており、ビットコインの利点の一つが再生可能エネルギーの利用です。

動画の中で、一般的なエネルギー消費の中で再生利用可能エネルギーが11%にも関わらず、ビットコインのエネルギー消費の39%を再生利用可能エネルギーが占めている事実が紹介されています。

また、他の産業への利用が難しい水力・地熱発電がマイニングに応用できる点を指摘し、ビットコインの持続可能性が議論されていました。

こちらの動画では情報源が不明確であったため、更にリサーチを進めたところビットコインマイニング評議会による調査が見つかりました。

ビットコインマイニング評議会(BMC)が提供するこちらの情報によると、2021年末の調査では評議会参加企業のマイニングに使用する電気の約66.1%は再生利用可能エネルギーを使用していることが明らかにされています。

実際に昨年11月のこちらのニュースでは、エルサルバドルが地熱発電を利用した大型のマイニング施設の建設を発表しています。このことから将来的には、再生可能エネルギーを利用したマイニングが主流になっていくことが考えられます。

これらの情報をまとめると、ビットコインマイニングに再生可能エネルギーが実際に利用されており、今後益々割合が増え、環境負荷を下げる試みがされることが予測されます。

ブロックチェーン業界は環境意識の高い若年層が先導しており、また環境負荷が投資における最も重要な論点の一つになっていることが背景としてあるのでは無いかと、筆者は考えています。

まとめ

今回の記事ではブロックチェーンのサスティナビリティについて、ビットコインのマイニングに着目し情報を整理しました。

世界でのビットコインマイニングの電力消費量が小国の消費量を超えることは事実としてあるものの、現在の社会で利用されている既存通貨や関連サービスの環境影響を考慮すると、その数値のみでブロックチェーンが環境に対して悪であると断言することはできません。

今回はサスティナビリティの中でも、現状議論が多い自然環境への影響に着目し記事を書いてきましたが、実際には経済や社会の持続可能性も考慮する必要があり、後の記事でそれらについても触れたいと考えています。

次の記事では、次世代クリプト獲得方法として注目を集めているステーキングに焦点を当て、ブロックチェーンのサスティナビリティを考えていきたいと思います。

参考文献

※1工藤章吾 (2022) 私たちのサステイナビリティ

※2Ben Purvis, Yong Mao & Darren Robinson (2019) Three pillars of sustainability: in search of conceptual origins

※3Nic Carter (2021) How much energy does Bitcoin actually consume?

※4Hass McCook (2014) An Order-of-Magnitude Estimate of the Relative Sustainability of the Bitcoin Network

※5 Peter St. Onge (2021) What’s the Carbon Footprint of Fiat Money?

 

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