現代社会では身近なIT機器は殆どがネットワークに繋がっていると言えるでしょう。
そして多くの人に身近なネットワークと言えば、やはりインターネットが挙がると思います。次点で家やオフィス等のLANでしょうか。
ネットワークにも色々な種類や構造がありますが、ざっくりと表現すればネットワークは論理的、物理的に異なる機器同士がコミュニケーションする為の仕組みです。そしてブロックチェーンもネットワークの上で動くものであり、自身もネットワーク的な要素を持ちます。
現在のブロックチェーンは各々のチェーンが独自チェーンとして独立しており、基本的には相互に価値のやりとりが出来ない状態です。なので取引所やAtomic Swapを含め、特定のサービスを使わないと異なるチェーン同士での価値交換が出来ません。
勿論この状態は皆が望む理想形ではなく、将来的にはスムーズなやりとりが出来る様になっている可能性はあります。
よく言われるのがブロックチェーンの拡大はインターネットの 拡大に似ていると言う説です。これに対する意見は様々ですが、実際にインターネットの歴史といっても広義過ぎて中々良いものが見つかりません。
そこで今回はネットワークプロトコルを中心にインターネットの歴史、変遷といった視点で、普及の過程を振り返ってみます。何故対象がネットワークプロトコルかというとそこには激しい淘汰があり、実際に使われるアプリケーションを如実に表している為です。
過去と現在のアプリケーションUI/UXの比較
上記の図は現在と過去のアプリケーション利用形態の変化を表したものです。
過去(上部)はPCからアプリそれぞれの方法(クライアントやプロトコル)を使っていますが、現在(下部)ではスマフォやタブレットを含めて多くの機器からhttp系の様な統合的なプロトコルを介して利用可能です。
勿論バックグラウンドでは従来のプロトコルが動きますが、殆どの場合は利用者がそれを意識する必要がありません。
上記では変化の構図を文字で表しました。当時は今の様なオールインワン無料プラットフォームが成り立つビジネスモデルは存在しなかったので、殆どのサービスは有料且つそれぞれのサービス提供者と契約、もしくは自前でサーバーを建てる様な形で利用する事になります。更にサービスによっては特定ハードウェア+特定OS上の専用クライアントといった条件も付きます。
特にFTPの様にストレージとデータ転送量を要するサービスは特に後者の傾向が強く、大きなファイルを送り合うのは結構な手間でした。
ここからは上記で表した過去から現代に至る変遷をざっくりと追っていきます。
ネットワークにおけるプロトコルとは
この界隈でも度々登場するプロトコルという言葉について、しっくりこない人は多いかもしれません。
多くの人にとって一番身近なネットワークプロトコルはhttpsでしょう。現在ではwebにアクセスする際には殆どhttpsが使われており、http系とブラウザ周りの進化は凄まじいものがあります。
ブロックチェーンとネットワークにおけるプロトコルという言葉は微妙に意味が違うものの共通点はありますので参考までに意味合いを紹介します。
これは基本的に規約、規格、約束事を表しており、異なる環境(ソフト、OS、ハード等)を問わず互いに同じプロトコルに従う事でコミュニケーションを成立させる様な目的で使われています。
なのでプロトコルによるコミュニケーション規格が出来ていないというのはインターオペラブルではない状態を指しています(普通のアプリは価値の紐付けを移転しないので、しっかり通信できていれば良く、ブロックチェーンと比較して敷居が低いです)
先程は一般的な例としてhttp系を挙げましたが、普段表に出てこないだけで実際には大量のネットワークプロトコルが存在します。
参考までにこちらが一般的に認識されるプロトコル≒ボート番号のリストですが、ここにある多くのものはインターネット上を流れる機会が減ったものの企業内ネットワークでは現役です。それらを大きくグループ分けすると下記の通りで、一番使われるタイプでも1000種類以上が存在します。
- Ports 0 - 1023 :Well known port
- Ports 1024 - 49151 :登録済みPort (主にソフトウェア開発者によりアプリケーション用途で)
- Ports 49152 – 65535 :公共用
更にTCPとUDPという種類がありますが、これは通信の確認有無による性質の違いです。
界隈向けに言えばTCPはX Confirmation付き、UDPは0 Confirmationの様なものだとイメージしやすいかもしれません(厳密には違いますがイメージしやすい形に表現しました)
大抵この二つは組み合わせて利用され、例えばTCPでホスト同士のセッションを持ちながら、ビデオや音声データはUDPで流す、みたいな使い方をします。
インターネットの黎明期
我々が普段利用するネットワークは主にインターネットを通して機器同士が簡単に繋がりますし、それが当たり前という認識の方が殆どだと思います。しかし昔からそうだったのでしょうか?
インターネットが出来るよりも更に前、ネットワークにも黎明期がありました。
最終的にはネットワークの核となるプロトコル(通信の決まりごと)がTCP/IPに落ち着いたのですが、統一前はそれぞれの組織が互換性の無い独自プロトコルを開発して使っていた為、互いに通信が出来なかったそうです。どこかで聞いた様な話ですよね。
具体的にはIBMのSNAPPED、DECのDECnet、富士通のFNA、日立のHNA、NECのDINA、NTTのDCNA等、きっと世界を探せば他にも沢山あった筈です。これらのプロトコルも全て絶滅した訳ではなく、一部企業では未だに使っているところもあるそうです。
こうした互換性問題、インターオペラビリティについて解決する為にISO(国際標準化機構)が中心となってOSI(Open Systems Interconnection)というプロトコルの開発に着手しました。ところがこれは重厚長大且つクローズドで結局普及には至らずTCP/CPが普及したという訳です。
TCP/IPが普及した理由は手軽でオープン、高性能ではないが扱いやすいというのがポイントだったという話です。しかしそれでもOSI参照モデルが今でも基礎知識として残っている通り、こうした研究や知識は何らかの形で生きていると言えるでしょう。
尚、この時点ではネットワークの規格が統一出来ておらず今のようなインターネットも無いという事は技術者同士の情報交換が今と比べて非常に難しかった事は想像に難くありません。条件が大きく異なる為、ブロックチェーンがネットワークプロトコルと全く同じ道を辿るとは限らないですが、一つの参考にはなるでしょう。
OSI参照モデルとTCP/IPの話についてはこちらの記事が参考になります。
インターネットの成長期
インターネットを流れる通信プロトコルがどういう流れで変化したか、いくつか具体例を上げます。
メール:メールクライアントからGmailの様なWebメールに大半が移行。サービス提供者や法人位しかインターネット上でメールの通信プロトコルを利用しなくなる。
FTP:ファイルのやりとりにはFTPサーバとクライアントで行っていたものが、クラウドストレージでのシェアが主流に。
ビデオ:Windows Media Player等からストリーミング再生を行う場合もあったのが、動画サイトやアプリでの視聴が主流に。
上記の様なプロトコルは最早企業内LAN位でしか使われず、個人同士がインターネットで直接扱う事は殆どなくなったと言っても良いでしょう。よく見ると気付きますがプロトコルが個別だったのみでなくクライアントも個別だった為、今のようにブラウザ+SaaSのサービスで全てが解決する様な事はありません。そしてFTPでファイルを送りたければ相手もFTPを扱えないとダメなのです。
ちなみに下記の画像は通信設定でアプリが通信問題で動かず、問題解決方法として表示されたであろう通信設定での案内です。こういうところから当時の敷居がそれなりに高かった事が伺えます。
つまり黎明期から成長期初期の通信を要するアプリケーションを使うには…
- OSとPCを入手(当時はLinuxやAndroidも無くPCも高い)
- 専用クライアントを物理記憶メディアからインストールして設定
- 更に必要であれば個別のサービス提供者と契約
- 必要があれば専用のネットワークポートを開放
という様な事をしていた訳です。ここまでやっても回線が遅いのでメディア系や重いファイルのやりとりは厳しいですし、今より多くの制約がありました。
インターネットの成熟期におけるプロトコルの淘汰
2000年台前半、Windows XPが全盛期だった頃、インターネットはPCをはじめとしたコンピュータが主に使うものでした。
Webサイトやブラウザは今程に便利ではなく、色々なサービスを使うには専用のソフトウェアを記憶媒体から取得したり、専用クライアントをダウンロード&インストールした上、更に場合によってはルーターでも通信設定(ポート開放等)をして使っていたのです。
OSの制限も厳しく、特定OSでしか動かないソフトウェアも沢山ありました。その頃はWindowsが圧倒的強者の時代でもあります。(昔のMacに対する私のイメージはアートやメディア系が強くデザインが良いけど、対応アプリが圧倒的に少なくて不便というものでした)
またブラウザ上で動画や音楽を再生するには追加プラグインが必要だったり、更にそういった補助的な要素も乱立していたりとあまり親切ではありませんでした。
この点に関して大きな変化のきっかけとなったのはAppleのジョブズCEOによるIphoneのFlash(ブラウザ用プラグイン)非対応化でしょうか。当時Flashはスタンダードに近いものがあったので、Appleがそれに抵抗するというのは相当大きな影響を与えました。結果的にはこれがきっかけでブラウザは更に進化したのかもしれません。
また法人向けのサービスでも専用ハードウェアを必要とするものが主流であり、今では当たり前のSaaS(Software as a Service)というのは多くありませんでした。ですが2011年にはa16zのMarc Andreessenによりこの流れが予見されており、実際にその通りになっています。
下図は2007年から2009年のインターネット上に流れた通信に関する変化です。現在とは規格が違いすぎて比較できませんが、全体が明らかに違うのは一目瞭然でしょう。とはいえ当時からもhttp系への収束傾向が見られていた様で注釈されています。
ちなみに現在ではhttp系が汎用的になり、プロトコルでは用途が測れない為に下記のようなプロトコルベースのデータは見つかりませんでした。最早こうしたドミナンス観測自体に需要がないという事でしょう。
最近のデータは下記の様にデバイスや用途、エリア等で分かれていますが、参考にCiscoが提供している最近のトレンドと直近の予測を紹介します。
Cisco Visual Networking Index: Forecast and Trends, 2017–2022 White Paper
面白いデータがあるのでここからいくつかを挙げてみます。
インターネット上のトラフィック、通信量のカテゴリ分布
ビデオ系の拡大が凄まじく今後も伸びていく事が伺えます。
現在利用されている様なビデオ系サービスから将来必要にされるであろうサービスに要求される回線速度
もしもUHD VRが一般化するなら500Mbpsの回線速度普及が必要という事ですね。
インターネットの通信におけるCDNの割合
こちらはインターネットのスケーラビリティを補助するメイン手段とも言えるCDN(Content Delivery Network)を通した通信がどれくらいの割合を占めるかというデータです。界隈的に言えばL1を流れる通信は徐々にL2以下へ流れてスケーラビリティを拡張していくと言えるでしょう。CDN無くして今の様なメディアや将来的に実現するであろうVRは成立しないという事です。
インターネット黎明期の回線速度
”~の速度はモデム並み”みたいな比喩が稀に使われる事がありますが、まさにそれです。
最初はアナログ電話回線+モデムで28.8k bps且つ利用中は家の電話回線を専有するというスタイルから始まりました。
次にISDNで64k bps x2回線まで使える様に。これで1回線を電話用に残しつつ、残った1回線で64kというアナログ電話回線+モデムも倍速となりました。更にISDNはデジタル回線なので品質も比較的安定します。
ここまではほぼ従量制課金で、定額なのはテレホーダイという23時から翌朝8時までの時間制限プランや、月額4万円近くかかるけど128k bpsで完全定額制のOCNエコノミーという贅沢プランもありました。(とはいえ、ヘビーユーザーはテレホーダイ時間外も利用しており、結局毎月数万円かかってしまうものでした)
更にテレホーダイ前半の時間帯は利用者が多い為に混雑が激しく、回線品質は酷いものでした。今でも酷いISPだとそうなりますが…
こうしたコスト対効果、そしてPCの扱いや価格と、黎明期においてはいかにインターネットが敷居が高く様々なコストのかかるものであったかが伺えます。
その後2000年末からついにフレッツADSLで一般家庭向けに高速且つ低料金の定額プランが誕生。この辺りから一気に普及が進みます。
黎明期を振り返ると、そこから20年そこらで多くの人がモバイル回線でスマートフォンやタブレットから高画質ビデオを視聴できる用になる世界が実現するとは驚きです。
まとめ
今ではこれだけ便利で拡大したインターネットとその上で動くサービスですが黎明期においてはどれだけ不便で敷居が高かったのか、淘汰がどれだけあったのか等々、雰囲気を感じて貰えれば幸いです(ここまでの道のりには様々な要素が積み重なっており、単純な話ではありませんが大幅に省略しています)
ネットワークとインターネットは世界に様々なブレイクスルーをもたらしました。
既存の概念を破壊する様なサービスが登場する度に賛否両論の嵐となりますが、やはり動き出した流れは止められません。
大局で見れば少々の問題よりも新たな価値と利便性へと進んでいるのが純然たる事実と言えるでしょう。
そういった意味でブロックチェーンの技術やアイデアに対しても“今の形では不便すぎて普及しない“と見放すのは早計だというのが個人的な所感です。
特にOSSとそこに対してインセンティブとして絡んでくるトークンや資金流入、新しい可能性としての認知拡大、前回の知見を活かしたUI/UXの改善、等々を鑑みると、今回は恐らくインターネットの進化よりも遥かに高速な進化が起きています。
私がこの界隈に参加したのは2017年からですが、当時から現在に至る進化は目まぐるしいものがあり、とてもではないけどこの速さで進化するとは当時考えられませんでした。
最初に過去と現在のアプリケーションUI/UXの比較で示した変化はまさに今イーサリアム上でも起きようとしています
徐々にですがユーザ向けのWalletが通常のアカウント(EOA)からContractアカウントへの移行が進んでいます。
これにより管理が容易に、送金手数料をサービス側で負担したり、ENSや提供されるサービスの利用を容易にしたりと色々な試みがなされています。
普段我々がインターネットのサービスを利用するのにIPアドレスをを意識せずURLで認識する様に、徐々にGAS代指定や0x~のアドレスを見かけなくなって行くのかもしれません。